食と農を通じて人と繋がり、心豊かに自由な暮らしを実現するオーガニックすみだ農園代表の住田さん。サラリーマン生活から一転し、40歳で少量多品目有機農業の道を選んだ住田さんが考える仕事の楽しさ、人との繋がり、そして豊かな暮らしについてお話を伺いました。
農業を始めたきっかけ
—住田さんは40歳までサラリーマンをやっていたと伺いましたが、どうして農家に転身されたのでしょうか。
元々は新卒で大手旅行会社に勤めていてツアーコンダクターをしていました。しかし、当時はバブル崩壊後の時代で給料も安く将来に不安を感じていたため、転職して激務だけど給料のいい会社に入社しました。もちろん入社してからは刺激の毎日で、やりがいもあったためすごく成長することができました。ただ、次第に会社の方針として『作ったものを売ってこい』というスタンスに変わっていき、不必要なものと分かっていながらも数字を達成するために売らなければならず、お客様の立場よりも会社の利益を優先することに違和感を覚えたんです。
—その違和感が、農業への転身に繋がったのですね。
そうですね。ある日、仕事帰りに歩きながら寝てしまい、溝に落ちて大怪我をしたことがありました。妻から『もう無理しなくていいんじゃない?』と言われ、その時の違和感もあったため退職を決意しました。「今後は売り手が上の立場とかそういうのではなく、自分が1から作ったものを自分の好きな人に売りたい」。今までの経験からそんな想いをもっていたため、最初は漁師になろうと思ったんですが40歳では厳しいと言われて断念しました。そんな時、農業フェアに行ってみたら農家さんたちがすごく優しくて、「40歳は全然若いよ」と言ってくれて、農業をやろうと決意しました。

農業へのこだわりと人と繋がる喜び
—農業の中でも農薬や化学肥料に頼らない有機農業を選ばれた理由はなぜでしょうか?
よく有機農業の理由に循環型社会のためとかSDGsとかありますが、私はそういうものよりも自分や家族が安心して食べていける野菜を作りたいという想いから始めました。農薬や化学肥料を使えば形がいいものをたくさん作ることができますが、大切な人に食べさせるなら形の良し悪しよりも心から安心できて美味しいものを食べさせたいですよね。多くの農家さんは販売用とは別に自分達で食べる用の家庭菜園の場所があって、そこには農薬はかけないんです。僕は家族に食べさせたい野菜の延長線上にある野菜をお客さんにも届けたい、そんな気持ちが原点としてあるので、形が悪くても、見た目が不揃いでも、美味しくて安全なものが一番だと思っていますし、そういうものをお客さんにも届けたいと思っています。

ー家族に食べさせたい野菜の延長線上にある野菜…。素敵な考えですね。でも有機農業はやっぱりコストも効率も落ちて大変ではないですか?
もちろん、農薬を使わないことで虫食いができたり、形がバラバラになったりし、野菜が虫や天候で全てダメになる時もあります。でも、お客さんの中には12年以上定期便で買って頂いている方や、私の送ったそら豆を使って豆板醤を作りそれを送ってきてくれる方など、うちの野菜を買ってくれる人は栄養摂取のための野菜ではなく、食べることを楽しんで、農家の想いを理解してくれるお客さんばかりなんです。そういう人たちと繋がっていると、農業の作業も全然苦痛でないし、手を抜かずにもっと美味しく作ろうと思えて、休みもいらないって思います(笑)。サラリーマン時代にものを売るというのを一生懸命やってきたからこそ、どっちかが上とかではなくお互いをリスペクトしながら買う今の状態が本当に好きなんです。商売としてやっていたらより高く買ってくれるお客さんや海外バイヤーに売ると思いますが、それは一過性のものだし、野菜を値段だけで判断するお客さんが多くなると思います。僕は1000人のお客さんに買ってもらうより、10人のお客様に100回買って欲しい。だから効率が悪くても頑張れるんです。


ー住田さんのそういった愛のある人柄がお客様にも伝わっているからこそ、みなさん定期便で購入してくださるんですね!オーガニックすみだ農園産の野菜にはどんなこだわりがありますか?
美味しい野菜は豊かな土から生まれるので、化学肥料は一切使わずに有機堆肥や微生物の働きを活かした土作りを徹底しています。まず、ベースにはJRA競走馬の馬糞堆肥を使用しています。競走馬はドーピング検査があるため余計な薬剤を使用せずに育てられており、その糞も安全で栄養価が高いため微生物が活発に働くフカフカの土を作ることができます。さらにカナダのロッキー山脈で採れるフルボ酸を活用しているのですが、これは腐植質から抽出された成分で、微生物のエサとなり土壌を健康にする役割を果たします。さらに平飼いの鶏舎で育てた鶏から有精卵の卵を生産している養鶏場の鶏糞を使用することで、馬糞に不足している窒素分も補っています。この独自の土が微生物にとって最高の環境、つまり野菜にとって最高の環境になって、根の張りが良くなり、野菜の栄養吸収が促進され、旨味が深まるんです。こうした手間を惜しまないからこそ、自信を持って美味しい野菜を届けられるんです。

住田さんにとっての豊かな暮らし
—そのこだわりを聞いているだけで住田さんの野菜を食べてみたくなりました。最後に、今後の目標を教えてください。
私の目標は、「前向きな現状維持」です。もっと規模を大きくしようと思えばできるかもしれませんが、私は生きてく中で大事だと思うことが二つあり、それが①「好きなことを仕事にして生きていくこと」と②「好きな人と暮らすこと」です。家族4人が食べるものに困らず、子供が行きたいとこまで教育が受けられ、月に一回腹一杯焼肉が食べられる。これが私にとっての豊かで自由で幸せな生活です。
また、農家としてはお客さんとは感謝し合いながら、リスペクトしながらやっていくこの生活をずっと続けていきたいです。例えていうなら、一般の大規模生産をしている農家さんをファミレスとしたら、私は看板のない小料理屋でいたいです。行ったらメニューもなくて勝手に出てくるし支払いも大体でいいけどここでしか食べられない、そういう農家でありたいと思っています。

—取材を終えて
収入を増やすことよりも、大切な人と豊かに暮らしながら美味しい野菜を作り、お客様と感謝し合うことを何よりの喜びとする住田さん。住田さん自身が人との関係性よりも会社の利益を重視していた世界にいたからこそ、その考え方には、現代の忙しない社会において忘れがちな本質的な幸せが詰まっていると感じました。
僕自身、取材をしていく中で住田さんの愛情深さや人としての深さに魅了され、取材が終わる頃には友達みたいな関係性になっていました。そんな住田さんの愛情と誠実さを知ることで、家族や友達と作り手の想いの詰まった野菜について話すきっかけになり、それは単なる食材ではなく食卓に温かさと豊かさを運んでくれるものになると感じました。
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