日本の伝統食品のひとつである梅干を専門に扱う『うめ八』。同社の次世代を担う二代目代表の小磯さんに、今までの歴史や梅干しへのこだわりについて語っていただきました。
八王子から始まった梅干し専門店の挑戦
——まず、うめ八様の創業の背景について教えてください。
もともとは、先代が50代半ばで脱サラして始めたのがきっかけでした。先代は和歌山出身で、当時、紀州の梅干しは東京ではまだそこまで知られていなかったんです。そのためチャンスがあるのではと思い、親戚のつてを頼って梅干しを仕入れ、販売することからスタートしました。一店舗目は八王子に出店したのですが、実は店名の『うめ八』の由来はそこから取っています。ただ、最初の頃は『梅干しは漬けるもので買うものではない』と言われることも多かったです。スーパーや漬物屋の一角に置いてあるくらいで、専門店で梅干しを買うという文化がなかったんですよ。しかも、当時の梅干しは100gで500円ほど。今は1000円くらいになっていますが、当時は『そんな高い梅干し、売れるわけがない』とも言われました。
——創業時は大変な環境でしたね。そこからどうやって専門店としての立ち位置を確立していったのでしょうか?
ちょうどバブル期に入ってきて、食の価値観が変わったことも大きかったですね。自宅で梅干しを漬ける人が減り、質の良い梅干しを求める人が増えていきました。『こだわりの梅干し』を求める方に支持されることで、徐々に専門店としての認知が広まっていきました。

本物の梅干しとは——手間暇を惜しまない製法
——うめ八様の梅干しのこだわりは何でしょうか?
一言で言うと『ちゃんと作る』ことですね。例えば、塩漬けや天日干しの工程をしっかりと行うこと。一般的な蜂蜜漬けの梅干しは、流水で一気に塩抜きをした後に蜂蜜液を漬け込む方法が多いですが、うめ八ではしょっぱい梅干しを薄い蜂蜜液に浸すことで、塩と甘みをゆっくりと入れ替えていくように漬けます。時間をかけて塩分を抜くことで、風味を損なわず、深い味わいの梅干しになるんです。
また、うめ八ではすごく甘い梅干しは売っていません。甘い梅干しは塩抜きする際に栄養分も水に溶けて出ていってしまうため、スイーツに近くなってしまうんです。梅干し屋としては、梅干しの素材の良さを引き出したものを食べてほしいので、手間暇かけた梅干しを販売しています。
——梅干し専門店ならではのこだわりですね!使用する梅の品種にはこだわりはありますか?
紀州の南高梅はやはり品質が安定していますね。梅干しの生産量も全国の6割を占めていて、加工技術も発展しているので味も一番美味しいですね。ただ、それだけではなく、北陸や九州など、各地の特色ある梅も扱っています。品種ごとに酸味や塩味のバランスが異なるので、お客様の好みに合わせて選べるようにしています。
また、材料に関してもきちんとしたものを使っており、スーパーやほかのお店で販売されていない梅干しなどが販売しているのも特徴です。知られていない梅干しは、もちろん知る機会がないため、私が直接現地の畑を見たり自分で味を確かめたりして、いいと思ったものを梅八で販売しています。

消費者の「好み」に寄り添う、うめ八流の接客
——うめ八様で梅干しを購入される方には、こだわりの強い方が多いのでは?
そうですね。ただ、ワインのように『この年のこの生産者のものが良い』という細かいこだわりというよりは、ざっくりと『食べやすい梅干しがほしい』『甘くないものが良い』という要望が多いですね。でも、一口に『甘くない』といっても、人によって基準が違います。そのため、試食していただいて、いくつか提案するようにしています。試食をしていただくことで、自分が思っていた味と違うことに気づく方も多いです。例えば『甘くない梅干しが欲しい』と言っていた方が、実際に試してみると、少し甘みのあるものを選ばれることもあります。お客様の好みを一緒に探していくというのが、うめ八の接客スタイルですね。

——たしかに、食べ比べできるのは専門店ならではで楽しめますね!おすすめの梅干しはありますか?
『坂東梅』、『白干し梅』、『珠宝梅』あたりがおすすめですね。『坂東梅』は南高梅の蜂蜜漬けで、蜂蜜漬けの梅干しが好きな方に人気です。『白干し梅』は塩気が強い梅が好きな方にはイチオシです。『珠宝梅』は石川県の能登地方で作られた塩だけで作った梅で、従業員が一番美味しいといっている梅です。この梅の生産者は90歳程度で、生産地が去年の能登地震により工場が稼働できなくなったのですが、在庫が震災前にうめ八に送っていただいたものがすべたなので、現在うめ八にある在庫分がなくなったらもう食べられなくなってしまいます。おいしくて貴重な梅干しなので、ぜひ食べていただきたいです。他にも、うめ八にしか売っていない5年ものの命の梅干しや、桃やトマトや桜など季節限定のフレーバー梅干しなどギフトにも推すすすめの梅干しもあるので、ぜひお店にきて楽しんでいただきたいです。
未来を見据えて——梅干しの可能性とこれから
——今後の展望について教えてください。
梅干しの販売だけではなく、その周辺の商材や文化の継承も意識しています。例えば、梅干しを漬ける過程で出る『梅酢』。これまでは産業廃棄物として処分されることも多かったのですが、実は栄養価が高く、調味料としての可能性もあります。5年前から自社ブランドとして商品化し、ドレッシングや料理のアクセントとして提案しています。また、梅干しの用途や使い道を増やすことでより環境に対しても優しくなれます。昨年は梅の生産も温暖化の影響を受けていて、昨年は歴史的な不作でした。これから先、梅の収穫量が減ることも考えられるので、梅干し以外の活用法を広げていくことが重要だと思っています。

また、梅干しはよくお中元や結婚式などの贈答品として使われることも多いですが、最近は生活様式も変わってきておりそういった風習はだんだん少なくなってきました。特に最近は母の日や父の日など、個人間のギフト市場が伸びていたりするので、今までの梅干し販売店ではなく、そういった時代の変遷に合わせて私たちもギフトに力を入れたりと、アップデートする必要があると感じています。
——最後に、梅干しをあまり食べたことがない方へメッセージをお願いします。
梅干しは食べなくても死なないので、苦手な方は無理して食べなくても大丈夫です(笑)。ただ、梅干しは古くから「梅はその日の難のがれ」ということわざもあるくらい体に良い食べ物として知られていて、薬膳を勉強した人が、圧倒的に薬効が高いのは梅干しだとおっしゃっていました。梅干しは酸味と塩味があって調味料に使うのもよく、お粥など健康を上げるために使われてきました。最近ではパスタなどにも使われたりするので、ピザにのせたり、梅酢をドレッシングに使ったり、日常の食事に気軽に取り入れてもらえたら嬉しいですね。

——取材を終えて。梅干し専門店としての時代を築いてきたうめ八様ならではの想いに触れることができました。
うめ八様の梅干しにかける想いや専門店ならではのこだわり。手間を惜しまず、じっくりと時間をかけて仕上げられた梅干しは、単なる保存食ではなく、食文化の一翼を担うものだと実感しました。
また、梅干しが持つ多様な魅力 ——健康効果、調味料としての活用、さらには贈答品としての価値——を最大限に引き出そうとする姿勢に、大きな革新の可能性を感じます。これからも伝統と革新を融合させながら、うめ八様が新たな食文化を築いていく姿勢を応援させていただきます!
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